田中 |
ある日、ごはんを食べている先生に向かって聞いたんですよね。「先生のことを題材にして漫画を描きたいのですが、いいですか?」って。そしたらひとこと、「いいんじゃないか」(笑)。
僕は正しい生き方をしている人でなければ、自伝にならないと思っているんです。だから自伝漫画は僕にとって誇らしいものなんですが、内心は、先生に「とんでもない。やめてくれ」って言われるんじゃないかと思っていました。
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高橋 |
自分のことを描かれるのは恥ずかしいって思ってましたよ。ただね、その時にも伝えたけど、仲間や同じ生き方をしている人をうまく描いてくれればいいなと思ったんです。それから、それを読んで、同じことを考えている人が何かを感じてくれて、それを磨いていってくれたらいいな、僕の生き方にしろ家族の生き方にしろ、そこに奇跡とか、可能性とか感じる人間が少しでも増えればいいなってね。
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田中 |
僕が漫画を描こうと決めたのは、病院の待合室でした。ぼんやりと先生のことを考えていた時です。「高橋先生はなぜ人のためにここまでできるんだろう。先生は人間としてものすごく大事なものを持ってる。僕は、医者というよりも高橋義男という人間に、水頭症と闘う子どもの命を託した。みんな(子どもたちの親)もそうだ。どうしてそんな人間ができたんだろう」って。それで単純に、先生のルーツが知りたい、そう思ったんです。
漫画は僕の特技だし、何かに活かしたいとずっと夢見ていたんですが、具体的ではなかった。ただ、息子の状態がちょっとでも良くなったら、必ず人に還元したい、人の役に立ちたいと心から思うようになっていました。
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高橋 |
この物語ができて、僕も最近思うようになったことがあるんです。名前は実名だし、まわりで起こったいろんなこともそっくりそのまま描かれているし、少しは抵抗もあったけど、「人間ってどうなんだろう」って思うようになったんです。同じように生きている人間、同じ価値観を持っている人間がそれぞればらばらでいる必要はないんじゃないか、そういう人間たちがクロスオーバーしていくことが大事なんだなって思ってます。待ってるだけじゃなくて、漫画をとおして交わっていければいいんじゃないかってね。
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