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『義男の空』では、たくさんの「命」の物語が描かれてきました。皆さんは、「命」についてどのようにお考えでしょうか。
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飯田 |
命か。命についてあらためて話そうとすると、何を話せばいいのか悩むな。
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髙橋 |
命って、なかなか一言では表せない。いろいろな捉え方があって、「寿命」と思う人もいれば「生き方」だと思う人もいるしな。
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小菅 |
そうだな。でも、思うに、「命そのもの」については、考えても答えが出ないんだよな。それぞれになんとなく、こういうものだろうという考えはあるけど、みんながこれだって思う共通の答えは存在しない。ただ、生き物には命がある。それがあるから存在できて、いつか必ず失われる。「生きている」って、とても奇跡的な存在だということは確かな事実
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だ。だから考えるべきは、「命の使い方」なんだ。
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飯田 |
命は「自分が使うことを許された時間」と言える。使い方というのは、つまりは生き方。命はなんだろうと考えるより、自分がどう生きていくのかを考える方が、ずっと大切なことだな。
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髙橋 |
それなのに、生き方を考えさせずに、いくら考えても正解のない「命そのもの」について子どもたちに問いかけているところが、今の時代のウソつきなところだと俺は思う。
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小菅 |
動物の場合、生きる目的は共通している。次の世代に命をつなげることだ。子孫を残すことが自分の存在意義だということを彼らは生まれながらに知っていて、ちゃんとそのために生きている。なのに人間は「命とは何か」って変に小難しく考えようとする。それは違うんじゃないかと思うよ。
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髙橋 |
しかも、子どもたちにそれを、頭だけで考えさせようとしているだろ。それじゃあ真実は見えてこない。俺は、経験を伴った知識こそが本物だと思うんだ。
俺たちが小さい頃は、生き字引と言われて尊敬されるお年寄りが地域に一人はいて、知識はそうした大人から教えてもらった。知識は生き抜いてきた経験から得るものだったし、自分自身も何かを学ぶ時には経験を通じて学んできた。命の尊さをセミの羽化から学んだように。でも、今の子どもたちは身を持って学ぶ機会が少ない。子どもたちと実際に接していても、知識はあるけど経験がないと感じることが多い。それは本当の知識じゃない。
経験してもいないのに知ったフリをしていると、言うことがだんだん本質からズレていく。今の時代はたくさんのメディアがあって、情報があふれているように見えるけど、その中は「リアル」じゃない情報だらけなんだ。だけど子どもたちは、偽物を与えられて、「リアル」だと信じ込まされていたりする。とても健全とは言えない。
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小菅 |
昔は今のようにインターネットがなかったし、体験で学ぶ以外に方法はなかったといえばそれまでなんだけど、いいことでもあったんだよな。ウソのつきようがないもの。
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髙橋 |
そうした状況に加えて、大人たちが自分の経験から得た知識を伝える機会も減ってしまった。そのせいで子どもたちに、命への向き合い方や、人としてあるべき生き方が伝わらなくなってしまっているんだ。
こういう状況になってしまったのは、子どもたちではなくて、俺たちを含めた大人たちの責任だ。今の子どもも昔の子どもも、基本的に変わりはないんだから。
人間は集団で生きる生き物だから、誰かのために行動しようという気持ちが元々備わっているものだと俺は思っているんだ。その気持ちを大人が育てようとしなくなった。昔は、就学するくらいの年齢になったら、「世のため人のために生きなさい」って言われたもんだけど、今の大人は言わない。「自分さえよければ」のままだよな。
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飯田 |
人として大切にするべきことを教えずに個性ばかりを強調するから、「自分が、自分が」という風潮が強くなってしまった。みんなが自分ばかりに関心を持つようになると、社会は成り立たない。当然、おかしくなってくるよな。
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小菅 |
このまま放っておいたら、ますますその傾向は強くなっていく気がする。オレたちは大人として、きちんと、伝えるべきことは伝える努力をしていかないといけない。
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髙橋 |
そうだ。生き方が変形してきてしまっているのは、大人たちが、生き抜いて獲得してきた知恵や経験を伝える機会を作ってこなかった結果なんだから。
世の中には、理由もなく変化を嫌ったり、自分にとって都合が悪いからという理由で心ある行動をとろうとする人間を排除しようとする人間もいる。けれど、そういう奴らに負けていたらダメだ。他者への思いやりや支え合いの気持ちが、社会に不可欠な「インフラ」だということは、いつの時代にも共通すること。その精神は絶対に次の世代に残していかなくてはいけない。そのために戦い続けていかなくてはと、最近、特に強く思うんだ。
この漫画も、その手段の一つだ。『義男の空』の根底には、常に、「みんな、同じ人間だべや」っていうメッセージが流れている。みんなイーブン(対等)ということ。だからこそ、さまざまな「仲間」の姿を、可能な限りリアルなかたちで描いてきた。ただの感動できる医療漫画ではなくて、命の尊さや人としてあるべき生き方を未来へと伝えていくための大切なプロジェクトなんだ。子どもたちには、想像力をたくさん働かせて『義男の空』を読んでほしい。そしてそこから感じたことを自分の日常に取り入れて、力強く歩んでいってほしい。
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今回、この漫画をきっかけに2人と再会できたことは本当にすごい奇跡だ。生きていることも、もちろん奇跡。人や物事との出会いは、奇跡の積み重ねだ。その奇跡を力に変えて、子どもたちが社会を動かしていってくれたらと願っているんだ。
◎この対談は平成27年1月に
行いました。
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