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卒業後はそれぞれまったく違う道に進むことになりますが、連絡は取り合っていたのですか?
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飯田 |
途中までは結構やりとりがあったよな。そもそも、全員が大学受験に一回失敗して予備校に行ったんだよ。オレと義男は同じ予備校で、小菅は違う予備校。
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小菅 |
オレは誰にも言ってなかったけれど、北大に行くって高校時代から決めていたんだよ。北大の柔道部に憧れていたからね。義男や飯田と一緒にいたら勉強できそうにない。だから先を読んであえて離れた。それなのにまた義男に巻き込まれるんだ。
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髙橋 |
俺は、親が大変な中、お金を出して予備校に行かせてくれているんだから、すねをかじってのほほんとしてちゃいけないって思って引越のアルバイトを始めたんだよ。そしたら「体力ある人がほしいからもっと連れてきてくれ」って言われてさ。飯田を誘って、さらに人集めも頼んだわけだ。手配師だったな。他の学校のラグビー部もメンバーに入れた。
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飯田 |
ラグビーの時と同じ。そしたらオレは小菅を迎えに行くだろ(笑)
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小菅 |
予備校の教室で勉強してたら飯田が窓ガラスをトントンって叩くんだからまいっちゃったね。だって、飯田に呼ばれたら行かなきゃならないだろ?(笑)
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髙橋 |
飯田は誘い方が上手いんだ。断わることができそうなんだけど、なぜか断れないんだよな。だから飯田に頼んだんだよ。
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小菅 |
そんな経緯でバイトを始めてみたら給料が良かったし、働きぶりによっては依頼主がさらにチップをくれたりカツ丼を食べさせてくれたりして、おもしろくなっちゃってさ。気がついたらまったく予備校に行かなくなっていた。
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飯田 |
それなのにオレらを引っ張りこんだ義男が先にバイトをやめてなあ。とんでもない話だよ(笑)
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髙橋 |
母さんにやめれと言われたんだよ。予備校の親達の進学相談で、「どこも受かりませんよ」って言われてさ。母さんは「今まで何してたんだ」ってカンカンで、勉強しないでバイトしていたのを話したんだ。予備校をやめれって言われて、予備校もバイトもやめざるを得なくなったんだけ
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ど、でももう仕事は入っちゃってる。お前らに「よろしく」って言うしかないだろ(笑)
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飯田 |
おかげで義男は合格したけどオレと小菅はもう1年浪人だ。
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小菅 |
まあ、オレたちもちゃんと気づいて、義男のように早めに抜けていればよかったんだよな。つい続けちゃったからな。
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飯田 |
で、心を入れ替えて勉強して、翌年、オレは関東のある大学に、小菅は目指していた北大に受かった。大学時代も交流はあったよな。20歳くらいの時、義男とドライブに行ったのをよく覚えてるよ。義男の姉さんのダンナの車を借りて、免許取り立ての2人で砂利道をぶっ飛ばしてスピンして、もうちょっとで車がひっくり返りそうになった。
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髙橋 |
あったあった。危なかったなあ。懐かしい。
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飯田 |
義男の結婚式にも出席したし、年賀状のやりとりも続けていたんだけど、お互いに忙しくなって徐々に途切れちゃったんだよな。
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小菅 |
オレは飯田とは大学時代もよく遊んでいたし、社会人になっても交流は続いてた。でも、義男とはバイトをやめた後はまったく連絡を取ることはなかったな。
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飯田 |
それでこうして何十年かぶりに会っても、昔のまま、悪口言い合えるんだからすごいな。結局オレたちの根っこにあるものは一緒なんだな。お互いにそれを感じるから、久しぶりに会ってもあの頃みたいにいられる。
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髙橋 |
一緒にいる時間が長いからとか、よく話すからとか、それが友達の決め手じゃないよな。大事なのは価値観を共有できて、かつ相手を尊敬できるかどうか。「深さ」があるのが本当の友達だと思うんだ。飯田も小菅も、自分が目立つとか、そんな計算抜きで、人を支えたり助けたりするタイプ。普段、口には出さないけど、そんな2人を俺は尊敬している。高校時代からずっとな。
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小菅 |
その言葉はうれしいな。人間関係の基本は相手への尊敬だというところにも心から共感するよ。オレももちろん、2人をとても尊敬している。2人の生き様にはウソがない。ウソやごまかしの多い人間になっていたら、今、こうして笑顔で話してはいられないだろうな。
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髙橋 |
そうだな。残念なことに、今は世の中全体がウソつきになってきていると感じることが多い。俺はそれがとても気がかりなんだよ。医療の世界も含めて、「みんなのためにやってます」って口では言うけどそうじゃないケースが増えた。ウソをつくってことは、つまりは相手を見下しているってことなんだ。相手への尊敬なくして本当の人間関係は築けないんだから、社会がうまくまわっていかなくなるのも当然だ。
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小菅 |
動物って人間から逃げるだろう? なぜかというと、彼らは人間が嫌いなんだ。彼らが人間を嫌
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う理由は、人間がとても自分勝手な生き物だから。動物って、好き勝手に生きているように見えてちゃんと野生のルールの中で行動し、周りと共生しているんだよ。実に感情豊かで、相手の感情もしっかり読み取る。食う食われるの関係はあるけれど、それは生きるために必要なことであって無益な殺生はしない。オレは旭山動物園で働き、動物と暮らす中でそのことを痛感したね。人間の方がずっと愚かだ。自分たちの言葉が通じないってだけで動物に感情はないと思い込んで、挙句に、偉そうにして自然界のルールを平気で無視する。自然界は互いの信頼関係で成り立っているのに礼節のない行動を取るもんだから、危険で嫌な奴らだと認識されて嫌われているんだ。人と人の関係でも同じことが言えると思う。
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髙橋 |
俺は小さい頃、セミが羽化する様子をどうしても見たくて夜中に観察しにいったことがあった。でもセミって、羽化の最中に光を浴びたらそこで羽化がストップして死んでしまうんだよな。知らなかったとはいえ、自分のせいでセミが命を落としてしまったことがものすごくショックだった。だから魚釣りも嫌いだった。自分のちょっとしたわがままが相手の人生に大きく影響することがあることを、その時に学んだ。相手の存在、つまり命を尊重することの大切さも。調和を保とうとしたら、相手に失礼なことはしないものだよな。
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飯田 |
関係性を作っていく力は、社会で生きていくために必要な力だと感じるよ。オレは代表取締役として採用に携わっているけど、採用時には必ず部活動の経験を聞いている。なぜかというと、周りの人と協力して物事に取り組むことのできる人間が仕事をする上で力を発揮していくのをこの目で見てきたから。自分を律し、周囲を尊重する力は社会人に不可欠な力だ。自分勝手にやっていたら人の和なんか作れない。人の和がなければ、物事を成し遂げていくことは難しい。
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小菅 |
自分一人だけで生きている動物って地球上のどこにもいな
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い。生き物は、必ず他の生き物と関わって生きているんだ。
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髙橋 |
人間だって例外じゃない。自分の都合や利益ではなく、他の命を尊重することから変わらない友情は生まれる。またそれが、健全な社会を作る力になっていくんだと思うね。
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