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【田中】 最重症で言葉を理解したり、
意志を表現したりするのは無理と言われた標君が、
言葉を理解するようになって、
トーキングエイドを使ってコミュニケーションもできるようになりました。
これは驚異的なことですよね。 |
瑞穂 |
可能性はゼロではないと思っていましたが、まさかここまでいろいろなことができるようになるとは予想していませんでした。最初は相撲に使われる書体に興味を持って、そこから少しずつ世界が広がっていきました。スポーツが好きで、よくマラソンや駅伝の中継を見るんですが、途中で「もういい」って言うんです。もう結果がわかっているから見なくていい、って。標は、好記録の出た過去のレース運びなどを記憶していて、それに照らし合わせて判断しているんです。 |
高橋 |
それは本当にすごいこと。標には驚かされるよ。 |
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瑞穂 |
言葉は覚えたけれど、これ以上はないだろうと思っていました。でも、遠い目標だと思っていた電動車いすに乗れるようになって、プールでもすぐに潜ってみせて。高橋先生に「15年くらい頑張れば、コミュニケーションできるようになった裂脳症の例もある」と言われた年になりましたが、標はその目標をずっと前にクリアしてしまいました。
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高橋 |
俺たちの想像していたことを超えていってる。標のようなケースは、世界的にも例の少ないことだと思うよ。
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瑞穂 |
何よりも標本人がすごく頑張っています。高橋先生の治療方針と標のやりたいことが、ぴったり一致しているから、うまく進んできたのだな、と感じますね。
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高橋 |
何かを思いきってやらなければいけないという時、標も、標の父さんも母さんも、それをはるかに超えることをやってみせる。そこが徳永家のすごいところなんだ。
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瑞穂 |
言葉の場合、標の学校の先生から「標は字をわかっているよ」と言われたことがきっかけで、試しにトーキングエイドを渡してみたら、「シルベ」と自分の名前を打てたんですね。それで標専用のトーキングエイドを買ってあげて、最初に打ったのが「ヨシオ」だったんです。実は、自分の名前を打てたものの、どこまで理解しているのかは半信半疑でした。でも、標はすごく欲しかったトーキングエイドを手にして、それで「ヨシオ」という高橋先生の名前を打ったんですね。今では、「〜〜かも」というくだけた表現まで使うんですよ(笑)。
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高橋 |
標はすごい男なのかもしれない。いつか有名になって、女の子のファンもできたりしてね(笑)
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瑞穂 |
これからどんなことがあるのか、とても楽しみですね。何もできなかったところからスタートして、まさかこんなに可能性が広がるなんて。本当に思いもしませんでした。 |
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高橋 |
標のようなケースは、同じ障がいを抱える人たちの大きな道標になる。通常ではあり得ない結果が出る人もいるということ。だからあきらめないで。標たちがそうであったように、一緒に闘う気持ちがあれば、なんでもできるはずだから。 |
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「義男の空」第3巻の巻末の
「巻末特別企画」に収録されています。是非ご一読ください。 |
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