横山 |
出会った当初から変わらず「信念の人」ですね。こういうふうに医師から機器をオーダーされるのはあまり無いことですし、オーダーがあった場合もふつうは医療者にとっての使い勝手の良さが求められます。だけど高圧シャントって、医療者側は便利にも楽にもならない。それどころか労力は増えるんです。じゃあなぜ橋先生がそうした機器を求めるかというと、それはただひとつ、子どもたちのためになるから。先生は以前に高圧シャントについて書いた論文の中で「本システムの利用は、子どもたちに“福音”をもたらすであろう」と著していて、私はその言葉が強く印象に残っています。
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橋 |
自分で判断や決断ができない乳児期・幼児期に、その子の将来や可能性、つまり未来をつくっていってあげるのは、俺たち周囲の大人たちだからね。できる限りのことをしてあげたいんだ。
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横山 |
先生は手術についても、子どもたちが学校を休まなくていいように夏休みや冬休みに予定を組むんですよね。そうした中でシャントの注文数が100近くにのぼることもありました。そんな時も、先生は何も見ずにシャントをオーダーされるんです。担当した子どもたちのその後の状況や、入っているシャントの状態を、完璧に記憶しているからこそできることですよ。
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橋 |
あの時は若かったからじゃないかな。今はノートがないとどうしようもないよ(笑)
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横山 |
でも、子どもたちのことを一番に考えて一緒に歩んでいく姿勢はその頃から変わらないですね。子どもたちのご家族も含めて、治療後も深く長く関わっていたりする。そういう医師をほかには知りませんね。
「歩けなかったら、車いすに乗ればいい。車いすに乗れなかったら、這えばいい」。これも先生の言葉なんですが、橋先生は子どもたちに可能性を提供するということに、何より心血を注いでいらっしゃいますね。
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橋 |
そうだね。だから可能性があれば常識にとらわれないで挑戦してきた。だって、何もしなかったら何も変わらないもの。シャント開発も、周りからは「ヘンテコなことをしてるな」って思われてきたんだ。だけど、この挑戦でたくさんの子どもの未来が拓けたよね。
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横山 |
高圧シャントが誕生して、シャントからの離脱率はそれまでの倍以上に高まりました。治療の有効性も理解されるようになってきていて、今後はシャント離脱がスタンダードになっていくかもしれません。
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橋 |
高圧シャントは、多くの人の夢や希望なんだよ。今後は横山くんたちと、世界に向けてこのシャント法を発信していこうと考えているんだ。患者本人も含め、病気と闘う人たちは国を超えてみんな「同志」なんだから、有効な方法があるって伝えたいよね。
俺が横山くんをはじめとする仲間たちとやってきたことって、もしかしたら「治療」というより「生き方をつなぐ、伝える」ということなのかもしれない。この頃ではそんなふうに感じるんだよね。
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