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「想定外(?)」な人なんかいない。誰にだって無限の可能性がある。
エアーダイブ 皆さん、異なる分野でご活躍されていますが、
高校時代からその片鱗は感じられたのでしょうか。
煖エ それがまったくなんだ。あの頃はみんな、なりたいものも特になかったし、将来のことも考えてなかった。今はしっかりした大人に見えるかもしれないけど、当時は、はっきり言って落ちこぼれだったしな。

小菅 そうだな。勉強に意味がないと思ってた。「地理を勉強したって、オレはその場所に行くことはないから」ってね。

煖エ 「過去は振り返らないから歴史はやらない。計算ずくの人間にはならないから数学はやらない。しゃべらないから英語もいらない」なんて言って、全然勉強しなかったな。俺は生き物が好きだったから生物はまあ楽しかった。

飯田 オレは電気系が得意でね。高校時代、エレキギターをやっていたんだけど、アンプを自作したことがあるんだ。買ったら高いだろ? だから借りたアンプを分解して仕組みを調べて、部品を買ってきて作ったんだよ。

小菅 それは初耳だ。お前賢かったんだな、高校時代は全然気づかなかったぞ(笑)。オレは物理や数学が好きだった。国語は嫌いだったな。でも、国語は嫌いになった原因がちゃんとあるんだ。「作者の気持ちを述べよ」っていう定番の問題があるだろう? その問いで、書いた答えが間違いだって言われたんだ。だけどさ、先生が作者に気持ちを聞いてきたわけじゃないじゃないか。だから「いろんな感じ方があるのが芸術なんだから、オレの答えも正解の一つです」って主張したらさらに怒られてさ。納得できなかったなあ。先生が用意してた答えと違ったとしても、それは「間違い」ではなくて、「意見が合わない」だけだろうってね。

煖エ いろいろな意見があって当然なのに、先生が決めた答えだけが正しいとされるのはおかしいなって俺も感じていたよ。それは教育じゃなく押し付けだよな。管理だ。

小菅 振り返れば、先生方の生徒への接し方にも通じるところがあったな。成績が悪くて自分たちに従わない生徒は「ダメなやつ」ってレッテルを貼っていた。さっさとやめてくれればいいって態度をとっていた。

漫画「義男の空」 収録対談 第9巻

煖エ 露骨だったな。俺のように目をつけられてる生徒は授業中も無視されたもんだ。順番で言えば俺が当たるところ、飛ばして後ろに当てる。一応答えの準備をしているのに、「ひどいなあ〜」って落ち込んだよ。

飯田 昔は、枠組みからはみ出したやつは切り捨てられたもんな。今は逆だな。はみ出しそうになったら中に戻す。だけど本質は変わっていないのかもしれない。子どもたちのためではなくて、教師のためにそうしてるということだからな。

小菅 今は何でもかんでも教師のせいにされるというのも大きいな。自分の責任はさておいて、学校に文句を言う親も多い。だから子どもに行き過ぎた干渉をするようになったんだろう。その中で学校はものすごく窮屈な場所になっているように感じるね。

飯田 社会に出て特にそう思うようになったんだけど、勉強っていう一面だけでその人の評価は決まらないよな。可能性はいくらでもある。

煖エ 思う通りの答えじゃないとバツ。成績だけがすべての基準。そんなの間違ってる。子どもたちもそんなこと言われてへこたれてちゃダメだ。俺は子どもなりに主張していたよ。自分は悪くないって思ったら誰にも引かなかった。先生には、「クラスの【ガン】だから退学しろ」とまで言われたけど、学校をやめなかった。親が悲しむから。

小菅 誰にだって主張はあって、自分の心をねじ曲げる必要なんかない。オレは高校時代、クラスで一人だけ進路希望を聞かれなかった。大学なんか行けっこないって決めつけられていたからね。だから当時の先生方にとって、今のオレは想定外さ。旭山動物園にいた頃、高校時代の先生が来園して、オレを見てなんて言ったと思う? 「やっぱりあの小菅くんなのか? 北海道大学に行ったのか?」ってポカンとして言うんだよ。

煖エ 何も驚くことなんかないのにな。「想定外」な人間なんかいないんだから。当時の先生と今会うと、感動している。先生たちも今の俺たちを見て感じるんだろう。子どもはすごい可能性を持っていた。そして、いくらでも変わっていけたんだってことをね。短所なんか見なくていい。悪いとこ見てたらキリがないだろ。長所を伸ばしてやればいいのさ。

小菅 動物と接してきてわかったのは、この時代に生きている生き物は、みんな必ず一番だってこと。なぜなら、誰にも負けない能力を持っていなければこの地球上で生き抜いてこられなかったはずだからだ。例えばオランウータンは、木と木の間を渡らせたら誰にも負けない。すばらしい能力があるんだ。それなのに人は、彼らは二足歩行が下手だって笑ったりする。見るべきところが違うだろうって言いたいね。わかってないのは笑ってるやつの方なんだ。

煖エ ハンディキャップの問題にも通じる話だ。俺は、ハンディキャップというものはそもそも存在しないと思ってる。その人の劣ってることを見つけて、「あなたはできない人ですね」って決めつけてるだけの話だ。

小菅 違いなんかあって当たり前さ。みんな一番を持っている。そう物事の見方を変えたら、他人を責めたり否定したりする気持ちはなくなって、相手への、命への尊敬の念が自然に湧いてくるんだ。旭山動物園の行動展示っていうのは、動物のすばらしい能力を尊敬できるかたちで見せようという取り組みだった。動物はみんな尊い。人間だって動物の一員なんだから、野生生物と互いに仲良く暮らしていこう。人間同士も認め合って生きていこう。そう伝えたかったんだ。

煖エ 他人はもちろん、自分自身の可能性も否定しちゃいけないと俺は思う。診ている子どもの中には「病気なんだからもうできない」ってあきらめてしまう子もいる。「私は病気だから好きなようにしていいですよね」って言

漫画「義男の空」 収録対談 第9巻
ってくる子もいる。俺は「ダメだよ」って答えるんだ。「人間は集団で生きていく動物だから、人と協調する能力を元々持ってる。君もできる。だから努力しなくちゃダメだよ」って言う。

飯田 常に可能性はある。期待されていない人間でも輝ける。その何よりの証拠が、学校では落ちこぼれだったオレたちの存在だよな。オレは社会に出て、仕事を通じていろんな人に会って、学校での評価がすべてじゃないと痛感することがたくさんあったよ。

煖エ 一つの評価だけで人生は決まらない。高校時代の経験が、俺の診療を含め生き方につながっている。誰にだっていつも、無限の可能性があると思うね。


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